見直されるアジア太平洋地域の描写

トレンド / リアリティ
rudi_suardi
1318588575
Yuri Endo
9月 8, 2023
世界人口の半数以上が住むアジア太平洋地域。経済的にも文化的にも大きな影響力があります。2030年までには、都市部の高所得世帯数は米国の2倍となり、世界のGDPの45%を占め、10兆ドルの消費拡大となることが予測されています1。世界人口の60%を占めるアジアは、メディアや広告の重要なインフルエンサーと言えるでしょう2。急速な文化の推移に合わせて、ブランドは、それぞれの文化をリアルに具体化するビジュアルを選ばなければなりません。

アジア人の描写における微妙な違いのバランスとステレオタイプへの挑戦
ゲッティイメージズのリサーチ「VisualGPS」では、アジア太平洋全域で、広告や取り組み全般で多様性と包括性を優先する企業に対して、消費者からの好感がかなり高いことが明らかになっています。驚くことに、ゲッティイメージズで人気のビジュアルのうち、アジア人の経験することを正確に描いたものは10%におよびません。そうしたビジュアルで描かれるのは、若々しく、細見で、明るい肌色のアジア人で、普段、企業関連やヘルスケア関連で目にします。しかも、人気のビジュアルで提示されるのは、同じメッセージとスタイル、そして感情です。多くは過度に陽気な感情で、文化的な複雑さを捉える深みに欠けます3
メディアにおけるアジア人描写の複雑性
VisualGPSでは、映画やテレビのほうが広告よりも多様性に富んでいることが明らかになっていますが、国際的な映画やテレビ作品中では、アジア人の登場人物がよく脇役やステレオタイプにあてはめられます。2019年、USCアネンバーグは、興行収入上位の映画に登場するAAPI(アジア人、アジア系アメリカ人、太平洋諸島の人)の4分の1以上が、不幸な結末を迎えていることを指摘しました4。テレビでは、そうした状況が続いており、たとえば、孤独なアジア人が登場する『イエロージャケット』などがあります。アジア文化を明確に表現するうえで課題が生じるのは、複数の文化が混同されるときや、俳優やモチーフが一致しないときです。シンガポール人の曲解した描写で批判に直面した『クレイジー・リッチ!』のような映画や、文化を過度に単純化した『ラヤと最後のドラゴン』や『モアナと伝説の海』といったアニメ作品などが、それにあたります。課題がありながらも、一部では、さまざまな一面もつアジア人の登場人物が描かれ、共感や包括性を促進する強い影響力をもったメッセージも発信されています。たとえば、『ビーフ』のような作品では、微妙な文化的違いを織り交ぜながら、アジア人の登場人物の経験することを探求しています。とある場所での格差を反映した物語に着目し、高い評価を受けた『マスクガール』や『ハンガー』のような作品もあります。さらに、『ソウルに帰る』は、異国に住むアジア人を思慮深く考察し、ローカルとグローバルの両視点からの見解を示しました。

ブランドやメディアがビジュアルを使ったストーリー表現に挑む場合、アジアの民族全体を受け入れながら、その多様なアイデンティティやライフスタイルを忠実に反映させなければなりません。ステレオタイプを変えること、そして、さまざまな要素が織りなされるアジア人コミュニティを認識することが重要になるのです。近年のVisualGPSでは、親近感のある表現が購買決定におよぼす影響が示されました。本物のビジュアル表現には、アジア人に対する広範な認識を改めるだけでなく、見る人とブランドの絆を強める力があるのです。ビジュアルによるストーリー表現でアジア人の描写の幅を広げて豊かにしていくために、ここからは、ブランド向けのガイドラインを紹介していきます。
各アジア人コミュニティの文化的瞬間を正確に描く試み
アジア太平洋地域においてゲッティイメージズでダウンロードされている人気のビジュアルには、アジア文化を過度に単純化したものが多く、中国、インド、日本、タイといった一部の文化のみに焦点があてられています5。こうした描写は、アジア人をステレオタイプで一括りにして、アイデンティティをはじめ、伝統、料理、祝祭、行動などの独自性をないがしろにするものです。旧正月のほか、多くの文化行事は、アジア人のアイデンティティの形成に重要な役割を果たしており、正確な表現の必要性が際立ちます。アジア文化をありのままに描くには、すべての年齢層を起用しながら、仕事という文脈以外の状況や役割を幅広く見せる必要があります。そのためには、ひとりひとりの民族性を、広義のアイデンティティの文脈で提示しなければなりません。
さまざまな世代におけるアジア人の描写の発展
ゲッティイメージズでダウンロードされる人気のビジュアルでは、大半が若年層のアジア人で、多くの場合、企業での職務に就いています。一方で、高齢者世代が描かれるのは、おもにヘルスケア関連の文脈においてです6。2025年までにZ世代とミレニアル世代がアジア太平洋市場の半分を占めるとされ、消費者の状況が変化するなか、正確な描写は欠かせません7。アジアの高齢者層は、多様で独立したライフスタイルを受け入れて、従来の慣習に立ち向かっています8。それと同時に、従来の職場環境にとどまらず、幅広い職業性にわたって若いアジア人を描くことも、包括的な描写にとって必須です。こうしたバランスをとることで、アジア人コミュニティの多面的な本質をありのままにとらえる表現が育まれます。
多様なアジア人コミュニティにおけるジェンダー/性的指向/アイデンティティを描く試み
ゲッティイメージズでダウンロードされる人気のビジュアルでは、女性が家庭内や家族生活のなかで描かれているのに対し、男性はもっぱら仕事の状況で描かれています。仕事や集団作業の場面では、男女どちらも頻繁に登場します。顕著なのは、ジェンダー表現の多様性の欠如です。異性愛者を標準にした描写が主流で、LGBTQ+を描いたものはあまりありません。アジア太平洋地域の消費者の70%以上がジェンダーアイデンティティの自由を主張しており、そこからは、ステレオタイプに挑んでいるブランド、特定の役割でジェンダーによる偏りがないようにしているブランド、そして、LGBTQ+やジェンダー・ノンコンフォーミング(規定のジェンダーに該当しない人)を含めているブランドの重要性が浮き彫りになります9。アジアの一部の国では、法的な制約が根強く存在するため、慎重な検討が必要となります。
アジア人の文脈におけるボディ・ポジティブと美の基準への対処
ゲッティイメージズでダウンロードされる人気のビジュアルでは、アジア人コミュニティのボディ・ポジティブを促進するものは稀で、体の大きな人たちは含まれません。ヨーロッパ的な美の理想が広まっており、アジア人の描写では、明るい肌、スリムな体、高身長が好まれます。大きな体が関連付けられるのは、多くの場合、ダイエットやエクササイズです。アジア太平洋地域では、体型、サイズ、肌の色に偏見が存在していることが、VisualGPSで示されており、肌の色の濃いアジア人は頻繫に労働者階級の役割で描かれています10。包括的な美の在り方を推進するには、日常生活、仕事、教育といった場面で、体型、顔の特徴、髪、肌の色などの多様性を見せて、包括的な健全性を強調することが必要です。
ゲッティイメージズの「Inclusive Visual Storytelling for Asian Communities 」では、意図を行動に変えていくためのブランドのガイドラインをまとめています。この総合ガイドは、リアルなアジア太平洋地域のコミュニティをマーケティングの中心に据えるための、明確な指針となるものです。文化的背景や人口動態に関するアドバイスなど、アジア太平洋地域の概説や、各国に関する具体的な知見を把握することができます。ジェンダーや文化などの重要な側面を網羅し、オーストラリア、ニュージーランド、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、台湾、タイ、シンガポール、韓国といった国ごとに知見も掲載しています。
出典:
[1] Meet your future Asian consumer (McKinsey & Company)
[2] Distribution of the global population 2022, by continent (Statista)
[3] Getty Images VisualGPS
[4] Asians & Pacific Islanders Across 1,300 Popular Films (USC Annenberg)
[5] Getty Images VisualGPS
[6] Getty Images VisualGPS
[7] What makes Asia−Pacific’s Generation Z different? (McKinsey & Company)
[8] Ageing and Health – Key Facts (World Health Organization)
[9] Getty Images VisualGPS
[10] Getty Images VisualGPS
アジア太平洋地域におけるLGBTQ+の可視性