アジア太平洋地域におけるLGBTQ+の可視性

トレンド / リアリティ
Erdark
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Yuri Endo
6月 21, 2023
アジア太平洋地域のLGBTQ+コミュニティを取り巻く状況は、複雑で絶えず変化し続けています。最近になって大きな進展が見られているものの、依然として課題や格差が存在しており、包括的なビジュアル表現の役割が重要になっています。

ゲッティイメージズのリサーチ「VisualGPS」では、アジア太平洋地域の人たちの70%以上が、性自認や性的指向を選択する個人の自由、そして、自分自身をありのままに表現する個人の自由を支持していることが明らかになっています。さらに、消費者は企業に対して、広告やビジネスコミュニケーションのビジュアルにおいて、ダイバーシティとインクルージョンの一貫した取り組みを期待しています。ここで示されるのは、LGBTQ+コミュニティの理解と受容、そして平等を、アジア太平洋地域内だけでなく世界的にも育むため、ブランドが包括的なビジュアル表現を推進するという重要性です。
アジア太平洋地域におけるLGBTQ+の権利を取り巻くさまざまな状況
アジア太平洋地域では、LGBTQ+の受け入れ状況は、国によって異なります。 とりわけ、重要な節目を迎えたのが、2013年にアジア太平洋地域で初めて同性婚を合法化した国となったニュージーランドです1。アジアでは、台湾が2019年に同性婚を合法化しました2。人口の約8%がLGBTQ+コミュニティに属しているタイでは、同性婚の合法化に向けて歩みが進められています3。こうした動きは、アジア太平洋全域でLGBTQ+の権利と平等を求める勢いが増していることを浮き彫りにしています。

ところが、アジア太平洋地域の一部の国では、文化、宗教、歴史といった要因の影響から、同性間の関係を疎外したり、犯罪扱いしたりする制約的な法律や社会規範が、依然として存在します4。とくに、タイのトランスジェンダーは、より高い度合いの差別を受け、そして、ジェンダーを正確に記述されないことに苦しんでいます5。  対照的に、台湾は、LGBTQ+の権利と平等の推進において目覚ましい変化を遂げています。とりわけ、同性婚の合法化や、包括的な政策の実施において、それが明らかです6。さらに台湾では、トランスジェンダーの人たち個人の権利を認めて保護することに向けて、重要な歩みを進めています。これには、公文書で性別を変更するための手術要件の撤廃や、第3の性別選択肢の導入が含まれます7

このように違いはあるものの、差別、法的保護の欠如、社会的な不名誉扱い、医療や支援サービスの利用制限など、LGBTQ+の人たちが直面する課題は、地域全体で共通しています。 
アジア太平洋地域における可視性の格差
アジア太平洋地域でもっとも使われているゲッティイメージズのビジュアルを見ると、多様な性的指向や性自認の表現に顕著な格差がある状況がわかります。LGBTQ+の人たちを描いているビジュアルは、全体の1%もありません。表現されているときは、プライドパレードやロマンチックな場面へおもに焦点が当てられています。アジア太平洋地域では、虹のシンボルの使用が世界平均を上回っていることにくわえ8、ビジュアルにおもに登場するのが、アジア太平洋地域以外の若年層となっており、別の年齢層やアジア太平洋地域のコミュニティが表現されることは限られています。また、トランスジェンダー、ジェンダーフルイド、ノンバイナリーの人たちも、十分に表現されていません9

包括的なビジュアルストーリーの推進
ゲッティイメージズのリサーチ「VisualGPS」では、アジア太平洋地域の消費者の大多数が、アイデンティティのさまざまな側面にわたって偏見を経験し、広告が自分自身や自身のライフスタイルを正当に表現できていないと感じていることが示されています。こうしたギャップに対処し、多様な人たちのもつニーズに応えるために重要なのは、ブランドやクリエイターが、さまざまなシナリオや役割でLGBTQ+の人たちを積極的に描くことです。象徴的な要素を単純化する表現や、固定観念にもとづく描写にとどまっていてはいけません。ゲッティイメージズのGosling GaoとArisa Nagaiがアートディレクターを務め、Oliver Wu、Bernie_photo、Shih‑wei、staticnak1983、Erdarkといったコントリビューターとともに、LGBTQ+コミュニティやそのアライと一緒になって行っているコラボレーションは、現代の多様な人たちに響く包括的なビジュアルの制作を可能にしています。

アジア太平洋地域で行った最近のコラボレーションの一部が、こちらです。
タイの教育と学校生活
アートディレクション:Arisa Nagai|撮影:Erdark

タイのバンコクで行ったこの撮影では、環境に優しい持続可能な都市計画を建築学校で学ぶ実際の大学生を追いました。タイの学生の様子を反映するために、LGBTQ+コミュニティの一員であると自認する学生や、さまざまな体型やジェンダー表現の個人を登場させ、教育分野でのリアルで包括的なストーリーを共有することに重点をおいています。一連のビジュアルでは、学生の日常生活を垣間見ることができるほか、登校の様子、仲間との交流、図書館での研究、論文発表、卒業祝いなど、リアルな学生生活がおさめられています。
台湾を巡るドライブ旅行
アートディレクション:Gosling Gao|撮影:Oliver Wu/bernie_photo/Shih‑wei

コロナ禍後の旅行広告で、LGBTQ+コミュニティをより良く表現する必要性が高まるなか、それに応じたのが、台湾中をドライブ旅行する実際のゲイカップルを起用したこちらの撮影です。インターセクショナリティの視点をもちこんだ同撮影のストーリー表現では、障害という要素をあまり見かけない旅行関連ビジュアルの状況を解消することにも焦点を当てています。彰化県の鹿港鎮や有名な日月潭といった魅力的な場所を旅するカップルの道中をゲッティイメージズのクリエイターが撮影し、ホテルのチェックイン、部屋でのリラックスタイム、朝食のシェアなど、要所をおさえながら、さまざまな目的地を探索しています。こうした場面をリアルに描くことで、一連のビジュアルは、カップルの真のつながりと、旅に対する共通の情熱を示しながら、より包括的な旅行ストーリーを提供するものになっています。
バンコクのビジネスコミュニティでの仕事状況
アートディレクション:Arisa Nagai|撮影:staticnak1983

タイのトランスジェンダーは、仕事と日常生活の両方で課題や差別に直面しています。現在、アジア太平洋地域のブランドがゲッティイメージズで使用するビジュアルのうち、トランスジェンダーを起用したものは1%未満ですが10、家庭と職場の日常生活でトランスジェンダーのコミュニティにかかわる多様なストーリーを求める需要は高まっています。この撮影でのビジュアルでは、実際のビジネスオーナーであるトランスジェンダーの女性が登場し、仕事を開始する際の準備、オフィスへの出勤、会議の進行、生産的な議論に参加する様子などが包括的にとらえられています。このようなやり取りをリアルに描くことで、同ビジュアルは、社会常識に挑んでインクルージョンを促進しながら、タイの躍動的なビジネスシーンで貴重な貢献を果たすトランスジェンダーの認識/評価を喚起するものになっています。
VisualGPSでは、親近感のある生活をおくる実在の人物のビジュアルを活用すると、アジア太平洋全域で購買決定に大きな影響を与えることが明らかになっています。ターゲット層を正しく表現することが大切で、それにより、あらゆる背景をもつ消費者とのつながりをブランドが構築しやすくなります。
出典:
[1] Same‑Sex Marriage Around the World  (Pew Research Center)
[2] Taiwan Becomes First in Asia to Legalize Same‑sex Marriage After Historic Bill Passes (Amnesty International)
[3] More Rights for Same‑Sex Couples (The Nation)  
[4] LGBTI rights: Many challenges in Southeast Asia remain, despite victories in Singapore and Vietnam (International Bar Association)  
[5]  “People Can’t Be Fit into Boxes” Thailand’s Need for Legal Gender Recognition (Human Rights Watch)
[6] Taiwan Grants Right of Adoption to Same‑sex Couples in Latest Move Toward Full Equality (CNN)
[7] Taiwan's Decision to Introduce a Third Gender: A Step Forward or a Step Backwards for Gender Equality? (Taiwan Insight)
[8]Getty Images VisualGPS
[9]Getty Images VisualGPS
[10]Getty Images VisualGPS

シゴトを表現するビジュアルの未来